白くまピース〜誕生から6年間の物語

母熊に捨てられて飼育員の高市さんに育てられたピース。
24時間体制の飼育が必要な小さいうちは、高市さんの家で子供達といっしょに育てられた。
白クマを家で飼うなんて、世界にもほとんど例がないのではなかろうか。
それにしてもピースのかわいいことと言ったらない。
布団で寝るピース、高市さんについて回るピース、高市さんの子供とあそぶピース。
これ以上かわいい生き物は地球上に存在しないのではないかと思えるほどだ。

少しピースのからだが大きくなり、畳の上で飼えなくなってくると、高市さんの家から動物園にお引っ越し。
歩くぬいぐるみのようなピースを見てお客さんは大喜び、ピースは動物園を走り回ったり、泳ぐ練習をしたりと、少し広くなった世界を楽しんでいる様子。
しかし高市さんが一緒にいる昼間のうちはいいものの、夜になって高市さんがいなくなると、高市さんを慕ってピースは泣き叫ぶ。
親に捨てられたピースにとって高市さんは親代わり、ピースはまだまだ母熊が恋しい年頃だからしかたない。

そのうちピースがどんどん大きくなってくると、高市さんが相手をするのも危険になってくる。
何しろ相手は体重300㎏もある地上最強の肉食獣なのだ。
たとえ傷つける意志がなくても、ちょっとなでただけで人間の華奢な首なんか簡単にへし折れてしまう。
高市さんはピースになら殺されてもいいと思っているかもしれないが、そんなことになるとピースは殺人熊として薬殺されたうえに動物園は営業停止になってしまうので、園長はこれ以上高市さんがピースと直接ふれあうことを禁じた。
もう鉄格子の外からさわることしかできない。

今年6歳になったピースはもう十分親離れしてもいい年だ。
しかし幼いころから人に育てられたピースは、どうしても他の白クマとうまく接することができない。
白クマは猛獣のうえに繊細な神経をもっているとてもやっかいな動物だ。
クマとも人ともふれあうことのできないピースは、寂しさのあまりたびたびけいれんを起こすようになってしまった。
原因を取り除くことは困難なので、今は薬物を投与して症状を抑えている状態だ。

この悲劇は母熊に捨てられたときに決まっていたことなのかもしれない。
そのまま死んでしまうよりは人間に育てられたほうがよかったのだろうが、ひとりぼっちのピースを見ていると野生動物を飼育することは本当に難しいことなのだと感じる。


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